1957年
チャタレー裁判確定(チャタレー事件)

この裁判は、イギリスの作家D・H・ローレンスの作品『チャタレイ夫人の恋人』の日本語訳をめぐって、わいせつ物頒布と表現の自由が争われたものです。
内容は、イギリスの貴族チャタレイ男爵の妻となったコニーが主人公。夫は結婚直後に戦争で下半身不随となり、性的交渉も無くなり、更に夫から跡継ぎのために自家に見合う階級の男と関係を持つよう命じられる始末。しかし彼女が惹かれたのは労働階級出身で元軍人の森番の男オリバー・メラーズだった、というもの。
性的描写が露骨なため、猥褻な作品とみなされますが、内容そのものは階級社会への批判の要素を含んでいます。
そのため、翻訳した伊藤整と、版元の小山書店社長小山久二郎は、出版を決めますが、これに対し、刑法第175条のわいせつ物頒布罪が問われました。
東京地裁の第一審(昭和27年1月18日)では出版社社長小山久二郎を罰金25万円の有罪、伊藤を無罪。東京高裁の控訴審(昭和27年12月10日)では小山久二郎を罰金25万円、伊藤整を罰金10万円の有罪。最高裁の上告審では、上告を棄却し、小山久二郎と伊藤整の有罪が確定しました。
裁判の争点は、この書物が猥褻かどうかということよりも、猥褻の認定を裁判所が決められるのか、というところ。その基準である「社会的通念」と、社会多数の「公共の福祉」のために「基本的人権の制限」が大きな問題となったわけです。つまりこれを濫用すれば、権力の市民支配に利用される危険性もあるからです。
この裁判は大きな反響を招きました。
もっとも、そういう司法権限の云々ではなく、純粋に猥褻性としてみると、現在の直裁的な性描写があふれる書物や動画の氾濫に比べたら、まだ文学性の高い作品への生真面目な猥褻裁判が滑稽にも見えてきます。

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